ガードマンの試練
前回の続きです。暗がりからすっとなにかが立ちあがりました。
「あっ!」
いよいよ、泥棒がまぎれこんだとは……。でも、人間というのはこんなとき、驚いて腰を抜かすばかりでなんにもできません。
すると、暗がりから姿を現したのは、私にその技を教えた先輩でした。
「へへへ、本当にやってるのかどうか、確認してみたかったんだよ」
あんた、なにやってるんだよ!彼は真夜中の暗い倉庫に先回りして、数十分も息をこらし、私を待ちつづけていたのでした。
この男の無邪気な性格は、このあと私をさらなる恐怖に突き落とします。
いまはいたるところにカメラがありますが、当時はそんなものはありませんでした。
そのかわり、警備室には赤外線探知器によって、夜間のフロアをうろつく人間を探知できるシステムがありました。
人間がどこを通って、どのように移動しているかが、警備室にいながら光の点滅でキャッチできます。
しかし、ときどきネズミが走りまわって点滅させるのでろくに役に立たず、通称「ネズミランプ」と呼ばれていました。
そして、深夜。交代で睡眠をとるガードマンは、用意された部屋で寝なければいけないのですが、長椅子のある展示コーナーでこっそり寝ることもありました。
すると、またしても新人の私にさきほどの先輩が言ったのです。次回、完結します。